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大分地方裁判所 平成7年(ヲ)78号 決定

申立人(基本事件債権者)

セントラル抵当証券株式会社

右代表者代表取締役

太田八雄

右代理人弁護士

松嶋泰

寺澤正孝

相場中行

主文

当裁判所が、基本事件において平成五年六月二八日付でなした最低売却価額の決定はこれを取り消す。

理由

1  申立人の申立は別紙「執行異議申立書」及び「意見書」と題する書面のとおりであるから、これを引用するが、要するに、本件土地においては法定地上権が成立しない事案であるにもかかわらず、判断を誤り、法定地上権が成立するとし、その結果、不当に低額の最低売却価額を定めたものであるから異議があるというものである。

2  そこで、審按するに、一件記録によれば、一応、以下の事実を認めることができる。

(一)  別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という)及び同目録記載2の建物(以下「旧建物」という)について、基本事件債務者である株式会社アルディ(以下、単に「債務者」という)は、平成二年三月九日、富士火災海上保険株式会社から同日付売買を原因とする所有権移転登記を了し、本件土地につき、同日付で、セントラル抵当証券株式会社を抵当権者として、同社との同日付消費貸借を原因とする抵当権設定登記(順位一番の抵当権の債権額は金五億円、順位二番の抵当権の債権額は金一億円で抵当証券発行の特約付)が経由されていること、

なお、債務者は、抵当権者に対して、同日付で、「本件土地上の旧建物については、取壊し予定であり、平成三年一二月完成予定で支店ビルを建築予定であるところ、建物が完成したときはただちに保存登記後、右抵当権の追加担保として差し入れる」旨の念書を差し出していること、

また、右抵当権者が、債務者に対して右融資をするに当たり、平成二年三月一日鑑定(実地調査は同年二月二八日、報告書作成日付は同年三月一五日)により、旧建物を経済的耐用命数大幅超過を理由に無価値とし、本件土地についてのみの評価として金七億二六六〇万円の評価を得ていたものであること、

(二)  その後、本件土地及び旧建物について、平成三年九月五日、株式会社協和埼玉銀行(現在は「あさひ銀行」)を根抵当権者とし、債務者を株式会社ヒューマンアイとして、平成三年六月二一日設定を原因とする極度額金四億七三〇〇万円の根抵当権設定登記(本件土地については順位三番、旧建物については順位一番)が経由されていること、

(三)  平成四年二月下旬ころ、旧建物(昭和二四年九月二八日新築の事務所居宅)が債務者により取り壊されたこと(ただし、登記手続上は、滅失しておらず、現在も存在することになってはいる)、右取壊しについては、右(二)の旧建物についての抵当権設定が前記念書違反との抵当権者からの抗議に促され前記念書に記載の約定の履行としてなされたものと見られること、しかしながら、その後は、債務者において右念書に記載の支店ビルの建築はまったくなさず、その具体的計画等もないまま推移していったこと、

(四)  本件土地について、平成四年八月一一日、同年七月三一日付売買を原因として、児玉誠に対して、所有権移転登記が経由されていること、

なお、右売買については債務者から抵当権負担付で売買され、金一五〇〇万円の代価であったと見られること、

(五)  平成四年八月二七日、同日付債権譲渡を原因として、日本橋ファイナンス株式会社に対し、一番抵当権移転登記が経由されていること、

(六)  平成四年一一月ころから、別紙物件目録記載3の建物(以下「新建物」という)の建築が開始され、同年一二月二一日付新築を原因として、平成五年一月二二日、児玉誠を所有者とする所有権保存登記が経由されていること、

(七)  右建築が開始されたことから、これを現認したセントラル抵当証券株式会社従業員の報告により、平成四年四月一八日大分市によって本件土地が差し押さえられて債務者が期限の利益を喪失していたこともあり、同年一二月二五日、日本橋ファイナンス株式会社から本件不動産競売申立てがなされ、同月二八日付本件不動産競売開始決定に基づき、同日、差押登記が了されたものであること、

(八)  その後、平成六年三月三〇日付で、日本橋ファイナンス株式会社からセントラル抵当証券株式会社に抵当権付債権の譲渡がなされ、基本事件債権者の変更があったこと、

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる疎明資料はない。

3(一)  抵当権設定当時、土地上に建物が存在し、その土地建物の所有者が同一であった場合で、土地のみについて抵当権の設定がなされた場合に、その後、建物が滅失して再築された場合、建物保護の公益的要請並びにその建物の存在を担保価値算定の基礎とした抵当権設定者及び抵当権者の土地利用権存続をめぐる意思と予期という双方の観点から、再築前の建物を標準とする法定地上権が成立すると解されるところ、右根拠からして、それは右再築が抵当権設定者自らがなした場合に限定されるいわれはなく、たとえば、第三者が土地の使用権を取得して再築した場合においてもその理は同様に妥当すると解される。

そして、当裁判所は、基本事件について、これを旧建物の新建物への再築事案と解し、平成五年六月二八日、本件土地につき旧建物の範囲内で法定地上権が成立するとし、それを前提として最低売却価額(八七五〇万円)を決定した。

(二)  しかしながら、前示認定事実にあるように、(1)抵当権者は、本件土地上の旧建物については、その経済的耐用命数大幅超過を理由に無価値と評価し、近い将来、抵当権設定者において取り壊されるものであることを前提として評価した上で融資を実行し、抵当権の設定を受けたものであること、抵当権設定者においても、右取壊しを抵当権者に約束し、本件土地上に建物を新築した際には、追加担保として差し入れることを約束していることなどからして、本件抵当権は本件土地上の旧建物の存在を担保価値算定の基礎としているものではなく、本件土地をいわば更地として評価して担保価値を算定したものであるというべきこと、(2)その後、抵当権者から促されて、債務者が、平成四年二月下旬ころ、旧建物を取り壊したものであるが、債務者(抵当権設定者)において建物を新築して本件土地を継続使用していく姿勢や具体的計画が特に認められず、そのように更地状態のままで放置していたものであること、(3)そのようにいったん更地となったままの状態になっていたころの平成四年七月三一日付売買によって、本件土地所有権が児玉誠に移転し、同年八月一一日、所有権移転登記が経由されたが、右売買については、債務者から更地である本件土地について抵当権の負担がついていることを承知のうえで売買され、したがって、代価も金一五〇〇万円と廉価であったと見られること、ところが、かかる立場の第三者である児玉誠が、同年一一月ころから、更地となっている本件土地上に、簡易建物である新建物の建築を開始し、同年一二月二一日付新築を原因として、平成五年一月二二日、所有権保存登記を了したものであることなどの経緯を具に検討するとき、本件は、土地の利用権存続につき、その継続性がまったく断絶しているというべく、その観点から、民法三八八条所定の法定地上権が成立する旧建物の新建物への再築事案とは異なるものであり、いわば更地に抵当権を設定後、当該更地の所有権を取得した第三者が、当該更地上に建物を建築したという事案と同様に評価すべき事案であると解され、したがって、民法三八八条の適用範囲外の事案であるというべきことになる。

4  してみると、基本事件において、本件土地につき、旧建物の範囲内において法定地上権が成立するとし、それを前提にしてなした前示最低売却価額の決定は相当でないから(本件執行異議の申立は理由があるということになる)、これを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官村上亮二)

別紙物件目録

1 所在 大分市中央町二丁目

地番 四一番地

地目 宅地

地積 171.37m2

2 所在 大分市中央町二丁目四一番地

家屋番号 四一番

種類 事務所・居宅

構造 軽量鉄骨造スレート葺二階建

床面積 一階 122.58m2

二階 68.04m2

3 所在 大分市中央町二丁目四一番地

家屋番号 四一番の二

種類 店舗

構造 木造スレート葺平家建

床面積 99.03m2

付属建物

符号 一

種類 便所

構造 木造スレート葺平家建

床面積 6.48m2

別紙執行異議申立書及び意見書〈省略〉

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